競技物理と一緒に1年間を過ごす

目次

はじめに

 僕は2023年のIPhO(国際物理オリンピック)に出場した者です。ここでは僕が1年間競技物理をやってみた経験と反省をもとに、これから競技物理をやろうとしている高校生や中学生の方に役立ちそうな情報を書きます。もう一つの役割は単なる国際大会などの日記です。興味がなければ読み飛ばしてください。

 なおJPhOに参加した当時僕は大学で勉強するような物理を全く勉強していなかったし、今でもあまり勉強できていません。いわゆる大学物理の勉強をしっかりしてきたと言えるわけではないので、あまり物理については書けないですが、むしろ研修の流れなどについて詳しく書きたいと思います。参考にしていただければ幸いです。

JPhO

 もともと中学生の頃は周りの影響もあり漠然とJMOとか広中杯系の大会を受けていましたが、中3の頃初めて読んだ高校物理の本が面白くて、JPhOに参加してみようと思いました。レポートが面倒で高1の時は参加しませんでしたが、高2で初めて参加することにしました。レポートがJPhOに参加するうえでの難点になりがちですが、適当にやるでもいいので迷ったらとりあえず申し込みましょう。

1次

 知っている人も多いと思いますが、JPhOの第1チャレンジには実験レポートの提出(5月末まで)と理論試験(7月前半)の2つのプロセスがあります。

 まず実験レポートについて。テーマによりますが、定量的に何かを測るのがいいと思います。これだけで評価は少し上がると思います。実験は積極的に学校の先生を頼りましょう。僕は温度計を貸してもらうなどたくさんお世話になりました。

JPhO1次実験の様子

 次に理論試験について。当日持ち込む参考書は高校物理のいろいろな公式を網羅してるものがいいと思います。また、僕の場合後半時間が無くなったので、わからない問題はさっさと飛ばしましょう。配点を聞かれたことがありますが、僕が受けた年は1問4点、または3点で、あまりバラつきはありませんでした。75点くらいとればレポートで普通に評価されれば(CC以上)通る年が多い気がします。

2次

 理論の過去問をたくさん(5年分以上)解きました。それが一番早いと思います。また、僕は学校の先生に頼んでオシロスコープを使うのを体験させてもらいました。しかし本番ではオシロスコープを使う実験問題がよくわからずあまり役に立ちませんでした。

 過去問を解くときに、解答は買いました。丸付けをすると自分のだいたいの点数が分かるのですが、あまりあてにしないほうがいいです。実験普通にやれれば銀賞は行けるしもしかしたら金賞もありえる??みたいな感想を持った年が複数あったのですが、全然そんなことはありませんでした。実験でなんもできない可能性もあるし、僕のように理論が難しくなったと思ったら周りが全員簡単と言い出す可能性もあります。

 実験試験について。ついたら割とすぐ始まります。始まったら名前を書きまくります。この試験で実験試験のようなものを初めてやる人が多いと思いますが、組み立てがめちゃ大変なことがあります。ショートカットせずにしっかり問題文を読んで組み立てないと痛い目にあいます。

 理論試験について。当たり前ですが全部の大問に目を通しましょう。また、時間が足りなくなるのでわからない問題に時間を使いすぎないようにしましょう。300分で300点なので1点1分のイメージでやってました。これは国際大会の理論(300分で30点満点)を解く時も意識していました。

 2次はマジで代表候補ギリギリ。しかも代表候補が例年の12人でなく14人いたので、本当に拾ってもらった感じです。過去問でできても本番何があるかわかりません。

 それはそうと、2次で姫路に行った経験はとても良いものでした。あまり多くの人とは話せませんでしたが、同じ班(JPhOでは班分けして行動します)の人、試験の時近くの席にいた人、その他数人としゃべることはできました。夜は交流が禁止されていたので、同じ高校の同じ部活の友達がいたので、夜はずっと彼と電話していました。抜け出していた人もいたようですが、事務局の方が怒っていますよ!

研修

 JPhO終了後、秋合宿(1泊2日)で代表候補初顔合わせとなり、ほぼ同時に通信添削課題による研修が始まります。今年度は昨年度に続き秋合宿がオンライン開催でした。秋合宿ではIPhOリトアニア大会(2021)の理論過去問を解きました。僕はT2(理論問題をTheoryのT、実験問題をExperimentのEと呼ぶことにします)の電磁気の問題を解きました。後半は当然のように無理で、前半についてはできたつもりでしたが一部計算ミスってた気がします。周りが結構できてそうでとても怖かった。周りの候補が異常に強く見えるかもしれませんがきっと大丈夫です。多分周りもそう思ってるので。

 秋合宿は実験の講義みたいなのもありましたがそれは毎年同じそうなのでここには書かないことにします。

 そして、ほぼ同時に研修用テキスト3冊(メインで読む教科書)、詳解物理学演習(物理の問題集)、そして9月分の添削課題が配られ、添削ライフが始まりました。

添削課題

 代表候補の間、1か月に1度理論の問題、2か月に1度くらい実験の問題が送られてきます。まず問題を解く上での知識が足りないので、最初に該当範囲の研修テキストを15日くらいかけて読み、その後15日くらいで添削課題を解くという目標を立てましたが無理でした。今年は力学こそ簡単めだったものの、翌月の連続体の課題と文化祭がかぶって、文化祭後の10日くらいで体調悪くなりながらなんとか本を読んで課題を埋めました。案の定成績は悪かったです。

 後から聞いたのですが、最初の15日で添削課題を終わらせてしまうような人がいました(のちのAPhO金メダリスト)。候補の大多数が締め切りギリギリに急いでやると思いますが、本当は彼のように計画的にやったほうがいいです。

 代表候補の間の添削課題は理論が9月から2月まで6回(今年は、力学/連続体/電磁気/熱学光学/現代物理/総合演習)、実験は3回くらいあります。個人的には10月の連続体が高校でほぼ触れない内容を1か月で全部読んで問題も解かなきゃいけないのでつらかったです。文化祭がかぶったこともありますが。

その他のこととの両立

 あなたが研修に加えて何か部活や行事をやろうとしているなら、受験勉強はできません!僕は週4-5でサッカー部に行っていたのと文化祭前(10月)はパズル部という部活(部長をしていました)で文化祭準備をしていたので、10月は忙しく、ほぼテキストなども読み進められませんでした。文化祭が終わると受験勉強してる暇なんかないと思い、翌年の7月まで受験勉強はほぼ放棄しました。周りもそういう人が多かったと思います。しかもなぜかみんな勉強しなくても受験勉強はできて、今年のIPhO代表に至っては他の代表全員自分より圧倒的に出来るし、物理しかやってないのに共テ模試や東大模試で複数回1位を取ってる人がなぜか2人いた。2人とも東進の東大模試で5位以内しか取ったことないらしい。どちらが首席を取るか楽しみです。

 添削課題の締め切り当日に終わらなさ過ぎて学校を休んだ人も聞いたことがあります。僕のような物理の勉強が全然進んでない、該当分野の理解が浅い人にとって直前に課題を始めるのはなかなかハードで解ききれない可能性があるので、できるだけ早く該当範囲のテキストを読み終わって問題に手を付けましょう。直前に夜更かしとか徹夜する羽目になります。

合宿

 今年度は実地開催の合宿が2回ありました。それぞれについて体験したこと、反省したことを書きます。

冬合宿

 12月に冬合宿(3泊4日)があります。クリスマスの時期ですが、代表候補の皆さんにはあまり関係がありません。関係がない人が多いでしょう。4日のうち、3日を実験研修、1日を理論研修に使います。

 実験研修では、とある1日をまるごと使ってIPhOの過去問を4題解きました。解説も含めて10時間ちょっとくらい。ペアを作って2人で実験をしたのですが、まだ慣れておらずなかなか最後まで解くことはできませんでした。しかし、点数に縛られないで実験問題をやれることはとても楽しかったです。残り2日は確か初日と最終日だったので半日で、別の実験をやります。光学の実験が多かった覚えがあります。

 理論研修では、講義がいくつかと演習があります。こちらはちょうど丸1日の研修でした。今年度の場合、講義は量子論統計力学/熱力学、演習は相対論・量子論だったような気がします。この時僕は研修用テキストの相対論のページを読んでいなくて、相対論未履修だったので演習がめちゃくちゃ大変でした。まず一番基本の座標のローレンツ変換さえ知らなかったわけだから。余裕がある人は冬合宿前までに研修テキスト全部読んじゃうのがいいと思います。ほかの本にも手を付けやすくなるし。

 冬合宿は初めて候補が対面で会う機会でした。試験がないので、夜は遊びました。あねまめは最初会った時からクソガキだったと思います。散布図から相関係数を当てるゲームがはやりました。ペンシルパズルをちょっとだけ布教しました。冬合宿は研修よりこっちが本番な気がします。遊んでください。

春合宿

 3月下旬にもう一度合宿があり、そこで試験があります。代表はこの試験と添削課題の出来を総合的に評価して決められるらしいですが、詳細は知りません。春合宿と呼ばれることが多いですが、正式名称はチャレンジファイナル。ここまでの準備の経過と反省を先に書きたいと思います。

 まず冬合宿くらいまではほぼ研修テキストの月ごとの該当範囲と添削課題しかやっていませんでした。時々学校の図書館で講談社の基礎物理学シリーズとかファインマン物理とかの本を借りて読んでみましたが、そんなに多くはありません。文化祭も部活もありこれで手一杯でした。

 冬休み後は、過去の代の添削課題をちょっと見たりしてみました。IPhOにも手を付けようと思ったのですが結局やれませんでした。

 最後の添削課題が3/15に提出なので、そこから春合宿まで1週間くらい、ついに部活を休んで物理だけやる一週間を過ごし、IPhO過去問も始めました。

 僕はこんな感じで春合宿までの半年を過ごしましたが、いくつかこうすべきだったなぁという点があります。

  • 添削は早く終わらせよう。締め切り当日まで添削をやっているとすぐ次の添削が来て、他の物理の勉強が進められなくなる。
  • IPhOの過去問はもっと早く解き始めるべきだった。昔のほうが簡単なのが多いし、直近のと傾向が違うので、直近のは取っておくとしても昔のは冬とかその前からどんどん解いてていいと思う。
  • 春合宿直前はIPhOじゃなくて添削問題とか復習とかをやったほうがいい。あと研修テキストをしっかり読み込むのがいいと思う。

 3番目は本当に大事だと思っています。IPhO解いて準備万端と思って試験に向かったら全然IPhOぽい問題じゃなかった。

 さて春合宿が始まりました。1日目は研修(お勉強)です。実験をしたり講義を受けたり。夜は次の日の理論試験のためしっかり寝ました。

 2日目、理論試験。例年も多分そうですが今年は3時間と3.5時間の試験でした。合計300点満点。試験が始まった瞬間に複数人が解答用紙10枚下さいと言い出しました。数オリの文化らしい。問題については書けませんが、割と基本的なことを聞いている問題でみんな間違えて解説の時に苦言を呈されてしまいました。僕の出来としては悪くはないくらいだと思いましたが、選考が終わった後ほかの人にどんな感じだったか聞くと代表の中では低いほうかなと思いました。夜は寝ました。

 3日目、実験試験2つあってそれぞれ2.5時間だったような気がします。200点満点。試験中に装置を炎上させた人(のちのAPhO金メダリスト)がいました。試験中なのにめちゃくちゃ面白かった。国際大会に参加すると、この人は相当面白い人だとわかりました。勉強はめっちゃできるのにね。僕の出来としては、かなり出来たと感じました。あとからblackyukiから聞いた話ですが、なんか春合宿の実験はblackyukiか自分が1位みたいな感じらしい。多分これのおかげでIPhO代表になった。

 すべての試験が終わり、3日目の夜は唯一遊べるので、とにかく遊びました。いろんなカードゲームをしたのは覚えています。あねまめが持ち込んだSET、ゼノというカードゲーム、あとはナンジャモンジャが印象に残っています。知っているかもしれませんが、謎のキャラクターに名前をつけて暗記するゲームです。ナンジャモンジャで物理ワード限定でやったときに1人だけ化学のよくわからん反応を混ぜてきた。

ナンジャモンジャのカードたち

 確か右上がコンデンサ(明らかに形が平行平板コンデンサ)、あとは地球がシュテファンボルツマンの法則、オレンジの丸っこいのが黒体放射。あとはトリチェリの定理ダイオード、ヴィティヒ反応(化学のようわからんもの)とかあった気がするがどれだったかは忘れた。

 春合宿は試験があるので緊張するし、あまり遊べませんが、気楽に臨んでください。

  • 試験の後に解説があると思います。解説は聞いたほうがいいですが、ろくに理論の日は翌日もまだ試験があるので自分の出来をあまり気にしないようにしましょう。僕は理論がとてもよかったわけではないですが、このまま実験を普通にできれば通ると思い込むようにしていました。
  • どんなテストにも共通の話ですが、最初に問題を全部見ましょう
  • 試験が終わった後は遊びましょう。バスケとかもできました。楽しかったです。

国際大会

 まず国際大会の問題について書きます。理論と実験それぞれ5時間ずつ、理論が各大問10点満点が3つで30点満点、実験が各大問10点満点が2つで20点満点、合計50点満点で順位を競います。時々大問の満点が12点になったり8点になったりすることがあります。ボーダーは、それぞれの年の難易度によりますが、金:30-35、銀:20-25のことが多いと思います。例えば2022は難しすぎてボーダーが低くなっており、本当に年によるので参考にはあまりなりません。近年のボーダーは調べれば出てくることが多いので過去問を解いた後に見てみてください。どのくらいの難易度かわかっちゃうと点数に影響が出るかもしれないので、解く前にボーダーを見るのはお勧めしません

 代表選考が終わるとまた理論添削と実験添削が始まります。今度は理論添削が2週間に1回来るようになりますが、今までの形式と違い国際大会の過去問になるので、5時間きっちり測ってやる問題になり、負担は減ります。

 実験添削も国際大会の過去問になります。今年はEuPhO(ヨーロッパ物理オリンピック)とかIPhOとかでした。EuPhO過去問の実験添削がその大会の1位の得点を上回っていた(!)ので春合宿の出来も踏まえて自分は実験型だと自覚するようになりました。しかし後のAPhOとIPhOではあまり出来が良くなかったので、頼るなら理論です。実験は僕の場合安定しませんでした。みなさん理論の勉強頑張ってください。

 春合宿後に部活の大会があり、そこで部活を引退したので週4回の夕方がまるごと暇になりました。物理をやるようにしました。

APhO

 本来なら時系列順に書きたいですが、この時はまだ日記を書いていなかったので適当な順番で書きます。問題のネタバレを含みます。

 APhO(アジア物理オリンピック)までは、添削をやる、テキストを読む、の他に過去問をやりました。あまり進められず後悔しています。またAPhO前が本当にスランプで、過去問やってもできない、添削も低い点数、と酷い状態でした。

 APhOの問題は難しいことが多いので、取れるものをミスなくとりましょう。

 今年のAPhOはモンゴルで行われました。とても良いところでした。あねまめがとにかく外国の選手に話しかけまくっていました。日本語も英語も恐ろしいほど早口で意味がわからない。いくつかのチームと仲良くなり、IPhOでも再会しました。けん玉の布教はこの時から始まりました。交流に超便利なツールなのでおすすめです。

 一応問題についてもコメントをします(全然解けてませんが)

 問題はここにあります(上から日本語、英語)

www.jpho.jp

apho2023.mn

T1:ISSの軌道の低下

 物理的考察があまりいらず積分など計算が中心なので、他2問と比べると解きやすいと思った。文字がいっぱい出てきて、自分ができたと思っているところもなんかいろいろミスってそう。イスラエルに物理大好きアメフト少年みたいな人がいて(日本チームは最初その人を勝手に「アメフト」と呼んでいたがアメフトじゃなくてバスケをやってる人だった)、彼はこの問題がただの計算だ、物理じゃないと言って嫌っていた。

T2:ターンテーブルの上のボール

 回転するテーブルの上を剛体球が転がる問題。剛体×ベクトルの計算。無理!あれほど剛体出るなと祈ってたのに出た。剛体難しくなるといくらでも難しくなっちゃうから、もっとやっておけばよかった。

T3:キャビテーション

 圧力低下で泡ができていろいろみたいな話の問題。無理!問題B.1とか知ってなきゃ無理だと思う。レイリー・プレセット方程式というらしい。僕は知らなかった。見たことあれば導出できたんだろうか...例のイスラエル人は物理っぽくて好きだったらしい。結局彼は金メダルなので相当物理ができる人だったんだろうな。

E1:ヘルツ接触応力

 意味がよくわからない式が導入部分にあって混乱したけど、とりあえず前半を見てみると振り子の振れ幅を変えて周期との関係を求め、周期の式を展開した時の係数と重力加速度を求める問題、つまり今年のJPhO実験レポート!これのおかげでモンゴルから帰った後のレポートがだいぶ楽になりました、ありがとう。この部分はこの大会で唯一といっていいほどよくできたと思います。値も理論値とよく合ったものが出ました。しかし後半2つの球を衝突させて衝突時間がどうたら、次元解析がどうたらのところでよくわからなくなり撤退しました。

E2:熱変形表面によるレーザー光干渉

 つなぎ方が分からずレーザーつけるまでに30分かかり、ついても試料を溶かすことができず永遠に干渉縞が生まれない。というわけで無理でした。

 

 というわけで理論も実験も難しすぎて何もできませんでした。自分の合計点数は理論7.8/30.0と実験5.8/20.0だったらしい(非公開情報)。試験終了後みんなで話してこれはメダルゼロなんなら入賞もゼロかもしれないと覚悟しましたがやっぱり難しすぎたようです。理論は2021の台湾よりは簡単ぽいですが実験がヤバすぎたため、台湾よりもメダルボーダーが低くなって、銅メダルをもらえました。うちのチームのアイドル(以下単にアイドルと呼ぶ)は合計20点超えで金メダル。スゴイ。

 試験の話はおしまいにして、モンゴルでの小話を書きます。登場人物は物理チャレンジとかでググるか、twitterとかで検索すれば出てくるかもしれませんが、知らない人は適当に読み飛ばしてください。

  • 半袖(稀に長袖)・短パン・ビーチサンダルが正装の人(以後短パンと呼ぶ)が日本チームにいるが彼はめちゃ寒いこともあるモンゴルでも「正装」のままだった。なんなら閉会式でも周りスーツみたいなのが多くても彼は「正装」だった。現地ガイドに風邪ひくのを心配されてrisk-takerと呼ばれていた。
  • タイ人とイスラエル人が自分の部屋にやってきてみんなでスマブラをした。IPhOでも再会して今度は彼らのところでスマブラをした。その間全くスマブラしてなかったので成長はなかった。
  • 観光が何回かあり、その時バスを使う。2席がけで5人バラバラで座れば隣に外国の選手が座ってくるので1対1で英語スピーキング練習ができる。実践した。
  • けん玉を教えまくった。もしかめができるならあなたも無双できる。ただ、短パンのほうが自分よりけん玉がうまいのでそっちに客を取られた。
  • 最終日にblackyukiとあねまめと短パンとロシア代表の子と現地ガイドが山に勝手に登って、現地の警備員にモンゴル語でこっぴどく叱られたらしい。ガイド以外モンゴル語を理解できないので何も意味がない。
  • ホテルはとても快適でご飯もおいしいが、2つだけ難点があるとすれば金属に触ると毎回静電気が来るのと、お湯が一度出なくなったこと。
  • 試験の後バスの中であねまめが現地ガイドに中国人だと思われた。その中国人は試験開始前に問題が入った封筒を開けようとしていたらしく、勘違いであねまめが警告を食らった。
  • kaageは英語のしゃべり方と立ち振る舞いがいつもTHE kaageって感じ。
  • 1人すぐどっかに消えちゃう日本選手がいた。
  • キルギス人、けん玉のセンスがいい。逆に絶望的な国もあった。
  • 遊園地に行った。アイドルだけジェットコースターに乗れないので1人で迷路に行ったらしい。回転軸が2つあってただその軸周りに回るだけなのにとても愉快に感じられるアトラクションがあった。
  • 音響設備がたくさんあって、さすがに音がでかすぎると感じることが何度かあった。特別講義の前に爆音バイオリンの演奏があった。なぜそこにバイオリンの演奏を配置したんだろうか。

 他にもいろいろ面白いことがありましたが、ここには書いちゃダメなものが多いので割愛します。文章がごちゃごちゃしていますがまあとにかく海外旅行楽しかったということです。これからは実地での開催が続くと信じていますので皆さん参加する際はとにかく遊びまくってください!

開会式・閉会式の会場(議会らしい)

部屋でスマブラ

ただの2軸回転なのに超面白いアトラクション

ロビーの地面でトランプ

寺で腕立て伏せする人

ウランバートル市街はとても都会

少し離れるだけで何もなくなる

IPhO

 問題のネタバレを含みます。

 APhOでなにもできず散々な点数だったので、IPhOまでに何とかしようと思いました。サッカー部の最後の大会で負けてしまい、すでに部活がなくなっていて学校関連でやるべきことが文化祭準備だけになったので、平日は3-4時間、休日は少なくとも6時間は物理に回しましたが、たぶん結果的に努力不足でした。皆さんはもっとやりこんでください。とある人は平日6時間、休日12時間やったそうです。

 この期間は基本的にはIPhOの過去問をやりました。また、過去の添削課題とAPhOも少し進めました。余裕がある人はEuPhOやNbPhOなどの他の大会(検索してください)、そして普通に物理の教科書や演習書もやるのでしょうか。僕には無理でした。

 相変わらず添削は来ますがそんなに大きな負担じゃありません。最後の理論添削がIPhOメキシコ大会(2009)そのまんまだったのですが、僕以外の4人が平均28超え/30で恐ろしいなと思いました。案の定本番でも彼らめちゃ成績良かったし。

 IPhOでは日記を書いたので、時系列順にここにもまとめようと思います。ここからは本当に日記なのでJPhOに参加する人の役に立つようなことは何も書いてありません。外国人選手との会話の話は別でまとめたので良ければこちらをみてください↓

Day 0

 直前研修があった。IPhOの過去問を実験2時間半くらいで1問解いて、理論2時間半くらいで2問(終わらなかったが)解いた。しかし東京近郊に住んでいる人は泊まれずいったん家に帰るのでほかのみんなとさよなら。

Day 1

 午前中は理科大でJPhOの第1チャレンジがあった。解法紙にまとめながら解いてたら最後1問間に合わなかったし、たぶんもう1つ間違えた。何をしているんだろう。3人満点がいたらしいがそのうちIPhO代表は1人だけだったらしい。何をしているんだろう。

 昼ご飯を挟んで、午後は結団式に出た。1つ上の代の人たちからお菓子と国旗と貴重なメッセージをもらい、その後IPhOの会場(オリンピックセンター)に移動した。途中参宮橋駅でIPhOっぽい人達を見かけて話しかけたらシンガポール代表だったということがあった。渋谷かなんかに遊びに行ってたらしい。

 到着するとすぐスマホを没収され、記念品をたくさんもらった。この時に全選手の国、名前、顔写真が載った冊子が配られた。これは後で日記に話した選手をまとめるのに役立った。そうでもしないと忘れてしまうので。

 とりあえず一度部屋に行って荷物を置き、その後立食パーティーに行った。人が多すぎて大変だったけどまあ楽しかったね。たくさんの人と話し、ちゃっかり初日からけん玉も布教した。夜はドイツ代表と部屋が近かったので彼らと話した。宿泊施設があまりよくないということを目玉焼きみたいなホテルだと言ってた。スマホも目覚まし時計もないので、同じフロア、同じブロックで7時以降に初めて起きた人が他の人の部屋をノックして起こすことになった。

Day 2

 朝ごはんがすごい列で大変だった。自分はいいけど海外の人への印象が不安だった。10:00から開会式が始まった。「日本人の英語が下手だと外国人は拍手をする」と自分の日記に書いてある。何を意図してこれを書いたのか思い出せない。メインイベントの選手入場で、日本チームは開催国なのでオオトリだと思っていたが普通にアルファベット順だった。開催国だし何しても許されるだろということで、とにかく各自でいろいろ面白そうなことをした。写真左から順に、サングラス、きつねの耳、国旗、けん玉、けん玉。NHKニュースにもけん玉パフォーマンスをしたことが取り上げられたらしく、嬉しい。が、2人ともミスったのがばっちり映っていた。普段は成功するのに。ほかの国も、民族衣装を着ていたり、帽子をかぶったりしていて面白かった。スイス代表はチョコレートを壇上からぶん投げていた。なんかめちゃ多く持ってきちゃったらしい。

開会式前に先生と この後問題の会議と翻訳、採点があるため先生方とはしばらく会えない

なぜか成功しているように見える写真が公開されていた

 開会式では和太鼓と空手のパフォーマンスも披露された。パフォーマンスする人の英語がうまいのが印象的だった。やっぱり英語は大事だと思った。あと、MC的な人が2人いたが、つなぎをうまくやって笑わせててすごいと思った。

 午後は自由時間だったが、うちのチームは割と疲れたっぽかったので宿泊棟の談話室(ソファなどがある共有スペース)でだらだらしながら勉強した。どうやら遊びに行く国と勉強/休憩する国が半々くらいだったらしいが、中国代表はさすがに勉強してたと聞いた。あとは夜ごはん食べて夜はおしゃべりしただけ。

Day 3

 実験試験を受けた。問題:

ipho2023.jp

 

E1:質量測定

 輪ゴムのばねをコイルが取り付けられたおもりにかけて、そこに交流を流して振動させる。キブル天秤が元ネタらしい、今年の東大物理にもそれっぽいのが出た。誘導起電力を聞いた簡単な理論パート(問題B.1)でなぜか全然わからず、その上振動数がちゃんと測れず、爆死。日本チームは4人B.1が分からず大変なことになった。残り1人は4時間かけたがちゃんと最後まで解いたらしい。

E2:複屈折による厚さ測定

 今年の代表候補は研修で何度も何度も複屈折をやってきたので、試験開始時タイトルを見た瞬間ニヤッとしてしまった。多分こちらのほうがやりやすいだろうと思って、E1を早めに切り上げた。最後の石英の厚さを答える問題で、3.8×10^-4mと答えようとしたところを3.8×10^-3mと答えてしまって痛恨だった。まあワーキングシートという途中経過を書く紙があって、それを見てくれてればある程度点は来るはずなので、少し落ち込んだがすぐ切り替えようと思った。とりあえず最後まで終わらせられたので7-8点は望めると思っていたが、多分そんなに良くはなかった(閉会式で得点分布を見せられたが、極端に低い得点に人が固まっていた)。途中経過のグラフがそんなに良くなかったのかもしれない。

実験試験を解く日本選手

 日本代表は1人を除いてE2のほうがよくできたと言っていたが、E2は前述のようにあまり点をもらえた人が多くなかったようなので我々もかなり落としたのかもしれない。札幌開成のアイドルと自分の実験の立ち回り方とやらかしたことがすべて一緒でめっちゃ盛り上がった。

 ほかの国にも出来を聞いてみた。中国も全部は終わらなくて15-16点ぽい。ベトナムとかアゼルバイジャンとかは7-8点の自称、ドイツとかデンマークは4-5点くらいと言っていた。blackyukiからロシアと台湾は全部終わってるらしいという話を聞いて恐ろしくなった。

 午後はCultual/Science Eventという催し物があった。科学技術や日本文化を体験できる企画がたくさんあって、とても面白かった。なんとけん玉コーナーがあったが、多分全選手・全スタッフの中で自分が一番うまいと思う。

 Scienceの方にはいろいろな企業が出展していた。例えば、ガスパイプを取り換えるのを体験するとか、真空を作る機械の原理を聞いたりとか、ミルククラウンを実際に撮影するとか、ピアノを弾くと絵が出てくるとか。APhOで推しの子とアイドルを知っている選手が多かったのでわざわざ直前5日くらい勉強の息抜きにアイドルを練習したので、まだちゃんと弾けなかったがここで弾いた。周り企業の人と日本チームしかいなかったのと、それ以外にピアノを弾く機会がなくて残念だった。短冊だったり、願い事をかくコーナーがいくつかあって、某はAW(Absolute Winnerつまり世界1位)になれますようにと書いて、彼女ができますように(英訳付き)とも書いていた。さすがに欲張りだ。

 Cultualの方はけん玉以外にもお手玉やコマがあって、多くの選手が遊んでいた。お手玉でバレーボールらしきものを始めていてびっくりしたがそれはそれで楽しそうだった。茶道、合気道、書道の体験もあったので、日本チームは茶道に行った。外国の選手も含めてみんな正座してたのに自分だけあぐらでなんか悲しかった。

 夜はひたすら雑談をした。プチプチパニックという口の中でぱちぱち弾けるあめをあげたらめちゃ好評でお菓子の名前を覚えて明日買いに行くとか言っていた。しばらく後に、笛を吹いている奴とお面を付けた奴を含む20人くらいの一行が談話室にやってきて、なぜか彼らは宿泊棟を練り歩いて回っているらしく、自分たちも参加した。最終的に100人くらいの集団になって結構な騒音になっていたと思う。スタッフの間で噂になっていたらしいことを翌日日本チームのガイドから聞いた。

Day 4

 寝坊した!前日夜更かししてしまったせい。まだ理論試験があるのに夜更かしするんじゃなかった。この日はエクスカーション(遠足)だったが、人を分散させるため浅草・横浜・お台場の3つに分かれた。日本チームはこの日はお台場に行き、ジョイポリスで遊んだ。ジョイポリスのある建物に到着後、チケットをバスガイドの人たちが準備している間暇だったのでマリオカートで遊んでいたら日本チームと太鼓の達人で遊んでいたもう1国だけ配布の場所にいなかったことになり、バスガイドの人たちに怒られてしまった。以後「日本代表としてのプライド」を持つように心がけた、はず。某が「久しぶりだなぁ」という感想を持っていた。なんでもかんでも俯瞰しすぎ。

マリカ(このあと叱られる、ごめんなさい)

 始めはみんなで一緒に回っていたが選手5人中2人が絶叫が苦手だったので、ガイドの人と2人でカフェに行くことになり残りの3人でアトラクションに並んだ。帰ったら、2人カフェで勉強してるじゃないか?まあなんだかんだそのあとみんなで一緒に回ったアトラクションも楽しかった。

 夕方は縁日があった。IMOでもあったらしいが盆踊りをみんなで踊った。意外と外国の選手もノリノリでやってたし、最後にはYMCAが流れてきてみんな知ってた。他、射的やピンボール、輪投げなどのコーナーがあったり、かき氷やチョコバナナなどの定番の食べ物もあって大いに楽しめた。

盆踊りも日本開催ならでは

 夜は明日の理論試験に向けて勉強しようと思っていたが結局遊んでしまった。まあそんなもん。

Day 5

 理論試験を受けた。問題:

ipho2023.jp

T1:土壌コロイドの特性評価

 ブラウン運動、拡散係数あたりの話。流束密度とか数密度とか出てきていろいろ微分とかして拡散係数を求めた。多分多くの選手が似たような話をどこかでやったことあり、誘導も丁寧だったので点が取りやすい問題だったかもしれない。最後の方だけよくわからず、雰囲気でこんな感じかなと解答を書いた気がする。途中で実験データを整理しアボガドロ定数を求める問題があって、配布された電卓の表計算機能が大いに役立った。

T2:中性子星

 初めの方は微分の問題だったが、途中で一瞬相対論が挟まる。試験中だと時間が延びるとか縮むとかよくわからなくなるもので、日本チームでも結論の符号がプラスかマイナスか試験後に議論になった。自分は問題C.3がよくわからず、点をかなり落としてしまったと思う。最後の問題は定性的考察だけで解けるので一応最後まで解いた。

T3:水と物体

 表面張力の問題。Part Aは2つの水滴がくっついて跳ね上がるのを考える問題、対してPart B,Cは水にいろいろ物を浮かべる、THE 表面張力な問題。B.5が怪しいのとPart Cでよくわからずかなり失点してしまった。

 総合して8-6-6で20くらいだと感じた。実際ほぼ一致した。試験後話すとほかの4人は25取れてそうな感じだったし、実際とれていて理論の実力不足を痛感した。KITA Shunsukeが28.8で本当にビビる。

理論試験開始直前の様子(JPhOもこんな感じ)

 というわけで、IPhOではAPhOの時と違って試験後に問題について話す余裕があったので、みんなと議論した結果、自分は合計30行ってるか行ってないかくらいで、他の4人は35行ってるか行ってないかくらいだと思った。理論が簡単だったので2018くらいのボーダーになるとみんなで予想し、実際近かった(金が35.6、銀が25.2)。

 すべてのテストが終わった後に皮算用をするのはいいと思いますが、テストとテストの間でするのはやっぱりお勧めしません。精神的にきついです。

 昼ごはんを食べた後、取材を受けた。JPhOのホームページからなぜかIPhO期間中の自分たちに密着(?)した15分の映像作品が秋ごろに出るらしいので、ぜひ見てください。

 午後はまたScience/Cultual Eventがあったが結局けん玉とおしゃべりしてただけなので割愛する。夜も同じ。4階から1階に降りようと1階に停止していたエレベーターを使おうとしたときに、某が上下どっちのボタン押せばいいかわからないと言ったのでとりあえず押してみたらと言ったら上を押した。エレベーターをまず4階に上げるために上を押さなきゃいけないと思ったらしい。全員爆笑した。理論あんなにできるのにエレベーターに乗れない人間。

Day 6

 午前中は浅草に行った。普通にガイド含む6人で楽しく観光した。おみくじで凶が多発した。途中でIMOのミャンマー代表に会った。

 午後は特別講義を受けた。ニュートリノカミオカンデの話と、青色LEDの開発の話。この特別講義に、IPhO代表でないあねまめが参加した。彼はしれっとオリンピックセンターに潜入し、部外者だということをほとんどの人に知られずにすっかり講義が行われるホールに入ってしまったのだが、ときどき日本チームの先生方(もちろんあねまめのことを知っている)がやってくるので、サングラスと帽子で変装させた。結局講義の後に先生方と写真撮影をしたが、カメラマンとしてあねまめを連れてきてどこまでばれないでやれるかチャレンジをやった。自分の知り合いのキルギス人という設定にして、英語で先生方と会話してもらったらたぶん誰にもばれなかった。恐ろしい。

 夜はディナーパーティーがあった。寿司が出たが人気すぎて一瞬で消えた。テストが終わった解放感で夜中は遊んだ。

談話室で遊ぶ様子

Day 7

 箱根に行った。天気が悪くロープウェイと観光船が運航中止になってしまったが、荒れてる芦ノ湖を見るのもなかなかないと思ったので満足だった。昼ごはんが結構豪華だったが、某がベジタリアンじゃないのにベジタリアン認定されて別の食事を用意されててキレてた(これまでもこういうことが何度かあったため)。夜はバスケをしたり、雑談をしたり、大浴場に行った。OPの方と風呂で永遠に話してたらチームメイトは帰ってしまった。結局大浴場が閉まるまで入っていた。ちなみに、この日ボーダーの情報が入ってきた。できれば閉会式まで知りたくなかったが、多分銀メダルだろうなと思った。

Day 8

 鎌倉に行った。普通に観光を楽しんだ。とても楽しかったがいわゆる観光なのでここに書くことはない。夜はいろんな国の選手とバスケとかお土産交換とかスマブラをした。日本とアメリカでバスケしてる最中に今年の理論1位の人のズボンが破れて自分が代わりにアメリカチームに入ることになった。日本にはバスケ部が1人いるので強いが、アメリカ人もとてもバスケがうまかった。スマブラは夜中やっていたが片付けをしなきゃいけなかったので途中で抜けて、片付けをして3:30くらいに寝た。

体育館でバスケができた

Day 9

 閉会式。メダルの発表。本気で自分以外の4金まであり得ると思っていたが、そのうち2人は惜しくも銀だった。自分も銀で、発表されたときはまあそんなもんだなと思った。あとから順位が発表されたので見たら思ったよりは実験が少し取れてなくて残念だった。あとKITA Shunsukeは来年も再来年も期待しているので頑張ってくれ。中国や韓国が5金で強い。しかしアメリカも実験1位や理論1位タイの人がいて、強さを感じた。大会を通じて日本チームのみんなと一番仲が良かったカタール代表の子が国で初めての銅メダルを取った。おめでたい。

 その後ランチパーティーがあった。寿司はすぐ消えたし、あまり食べられなかったがいろんな選手と写真撮影などをした。

 

 こんな感じで10日間くらい試験時間以外はひたすら遊んでいました。楽しさが少しでも伝わってJPhOに対するモチベーションが上がればとても嬉しいです。

終わりに

 僕はまだ物理を全然知らない未熟者ですが、物理チャレンジ・オリンピックを通じて興味を深め、問題を解くこと・他の参加者と交流することを楽しむことができました。楽しいので、皆さんも是非!気軽に連絡してくれれば答えられるものはなんでも答えます。

 また、1年間にわたりお世話になった先生方、OP委員の方々、事務局の方、ありがとうございます。これからも物理のお勉強頑張ります。